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中小企業AI経営協会/村越慎司

AIはもう「便利な道具」ではない ― 世界の首脳がAI企業トップを呼んだ意味


私が今回、なかなかすごいことだと感じたニュースがあります。OpenAI、Google DeepMind、AnthropicのトップがG7サミットに出席する、というものです。これが何を意味するか。AI企業のトップを、各国の首脳が集まるサミットに呼ばないといけないほど、AI企業の重要性が増している、ということなのです。

サミットは6月15日から17日、フランスのエヴィアン=レ=バンで開催され、世界を牽引するAI企業3社のトップが各国の首脳陣と揃って参加しました。2003年の同地でのG8サミットから23年ぶり。民間の一産業のリーダーが世界の首脳陣と席を並べるのは、極めて異例の事態です。呼ばれたのは、OpenAIのサム・アルトマン氏、Google DeepMindのデミス・ハサビス氏、Anthropicのダリオ・アモデイ氏の3名です。

世界の首脳がAI企業トップを呼んだ意味 (1)

「オブザーバー」ではなく「意思決定者」として呼ばれた

ここで注目したいのが、彼らの立場です。これまでなら、AI企業のトップは「オブザーバー」、つまり助言を与える立場での参加でした。ところが今回は違います。対等のテーブルに、意思決定者として呼ばれている。これこそが、AI企業とそのトップの重要性を表していると私は見ています。

世界の首脳がAI企業トップを呼んだ意味 (2)

「AIのルールを誰が握るか」という外交戦が始まっている

背景には、フランスの野望があります。グローバルAIガバナンス、つまり世界のAIのルール作りの中心地になりたい、という思惑です。AIの急速な発展に伴う国際規制のあり方、そしてその主導権を誰が握るのか。そうした外交戦が、すでに始まっているのです。

世界の首脳がAI企業トップを呼んだ意味 (3)

議題は金融、そしてエネルギー ― AIがインフラを左右する

サミットで話し合われるのは、もはやAIそのものの話だけではありません。一つは金融です。取引がAIでやられるようになれば、もう人間が敵わなくなるのではないか、という問題があります。

もう一つがエネルギーです。AIはものすごい電力を使うため、巨額の投資が進んでいますが、この電力をどう賄うのか。おそらく原発1基や2基では足りません。実際、電力が全く足りていないようなのです。特に「AIとエネルギー」の関連性は、世界規模のインフラのあり方を決める最重要テーマとして位置づけられています。

世界の首脳がAI企業トップを呼んだ意味 (4)

AIは「ITトレンド」から「地政学の最優先事項」へ

産業のリーダーたちが、国家レベルの最高峰のサミットに招かれ、首脳たちと直接、国際ルールを議論する。この事実は、AI技術がもはや単なるテクノロジーではなく、国家の安全保障、エネルギー戦略、そして国際秩序そのものを左右する決定的な要素になったことを示しています。

ここで私がお伝えしたいのは、AIはもう「業務で自動化できました」「作業が簡単になりました」という話ではなくなっている、ということです。AIはITトレンドから、地政学の最優先事項へと移りました。だからこそ私は、中小企業の経営者としても、この変化を重く受け止める必要があると考えています。

世界の首脳がAI企業トップを呼んだ意味 (5)

中小企業AI経営協会/村越慎司

AIの「担当者」を若手に任せていませんか ― 社長自身がCAIOを兼ねるべき理由


「CAIO(最高AI責任者)」という役職をご存じでしょうか。AIに関する経営判断を統括する役員のことで、いまfreeeやメルカリ、Sansanといった先行企業が、相次いでこの役職を設け始めています。Sansanは「CXO」、メルカリは「CHRO(人事責任者)兼CAIO」といった形ですが、共通しているのは、AIを経営の中心に据える役職が生まれている、ということです。

なぜ人事(HR)がAIを兼ねるのか。私は前から、AIは「労働力」だとお伝えしてきました。AIをどこに配置し、人間をどこに配置するのか。これはまさに人事の領域です。「AI is 人事」という考え方が、いま最新の発想として広がっているのです。

CAIO (1)

「AI担当」は、情報システム部門ではない

ここで多くの会社が陥りやすい、致命的な誤解があります。CAIOを「ChatGPTを社内に配って終わり」の情報システム部門のように捉えてしまうことです。これは違います。これからは、人事もマーケティングも営業もオペレーションも財務も法務も製品開発も、すべてをAIを通してやっていく時代が来ます。CAIOとは、その全体をどうガバナンスするかを考える人なのです。

ビル・ゲイツ氏も「ビジネスの再設計」という言い方をしていますが、AIによって、ビジネスはすべて再設計されなくてはいけません。人間がやる領域と、AIがやる領域がある。それを再設計し、会社自体をAX(AIによる変革)していかないと、もう生き残れない時代になっているのです。

CAIO (2)

中小企業に、専任のCAIOを雇う余裕はない ― だからこそ

とはいえ、中小企業に専任のCAIOを雇う余裕はありません。でも、だからこそ私は、社長自身がCAIO、つまり最高AI経営責任者を兼ねる必要があると考えています。AIをちゃんと、しっかり覚えていく。それを社長がやるしかないのです。

CAIO (3)

あえて言いにくいこと ― 若手への丸投げは、確実に失敗する

ここで、あえて言いにくいことを言います。若手への丸投げは、確実に失敗します。「若い社員にAI担当を任せている」という方はいらっしゃいますが、それだけでは全然足りません。若手は最新ツールには強い。けれども、会社の利益構造、お客様との約束、資金繰り、採用や評価の設計・判断は、できないのです。

スライドや社員旅行のしおり、レポートを作る。そういった末端の作業は、社員にAIを使わせれば、確かにできます。しかし、マーケティング、人事、営業、財務。こうした領域すべてにAIを組み込んでいくとなれば、どう組み込むかをシステマチックに設計しなければいけません。これは経営の仕事です。若手に丸投げ、というのはありえない。かつてのIT時代と同じ発想では、通用しないのです。

CAIO (4)

中小企業における最大の投資効果は、社長のAIスキル向上

私は、中小企業における最大の投資効果は、社長のAIスキルの向上だと考えています。完璧なAIシステムを外注する前に、まず社長自身がAIを使いこなすこと。社長の「課題発見力」「改善指示の質」「業務設計力」がAIによって引き上げられること。それこそが、最大の投資リターンを生み出します。

AIを学んでいるか、学んでいないか。そして、それを業務にシステム的に落とし込めるか、落とし込めないか。これが中小企業の生き残りを分けていくと、私は見ています。ChatGPTと話して「課題が発見できました」で良かったのは2025年あたりまで。これからは業務全体をAIに任せていく時代です。そこをシステマチックに取り入れられる会社さんだけが、生き残っていく。私はそう考えています。

CAIO (5)

中小企業AI経営協会/村越慎司

AIは「道具」ではなく「脳」 ― 修正しなければ、AIは育たない


協会で何度もお伝えしていることですが、AI導入は「ツールの導入」ではありません。今回は、この言葉の本当の意味をお話しします。鍵になるのは、「修正」という地味な作業です。

「道具」と「脳」は、使い方がまるで違う

これまでのITは、道具でした。ボタンを押せば、決まった処理が実行され、正確な結果が出る。一方通行です。ところが生成AIは違います。問いかけ・指示をして、回答を見て、もう一度修正して指示する。そのくり返しで、精度が高まっていく。対話と試行錯誤のサイクルなのです。

ですから経営者は、この「問いかける→回答を見る→修正する→精度が高まる」というサイクルを、何度も何度も回す必要があります。1〜2年前なら「バカな回答だな」とやめてしまう経営者の方を、私は何人も見てきました。それでも最近は、「結局やらなくちゃいけないよね」と理解され、皆さん使い始めていると思います。

AIを修正し育てる (1)

「ダメな回答」で、チャットを終わらせていませんか

ここが、今回いちばんお伝えしたいことです。回答を見たとき、修正の指示をしているかどうか。問いかけて、回答を見て、「ダメな回答だな」とチャットを終わらせてしまう。これが実は良くないのです。何が悪かったのか、「ここを修正してください」「ここが違います」と伝えなければいけません。回答を見て諦めてしまう経営者の方は、多いのではないかと思います。

なぜ修正が重要なのか。何がダメだったのか分からないままチャットが終わると、AIは学ばないからです。逆に、何が悪かったかを修正していくと、AIはだんだん方向性を理解し始めます。「こういうのがダメなんだ」「こういうのは正しいんだ」と。どんな修正をしたか、何がOKだったか。それもすべてデータとしてAIの中に残っていきます。だから、修正も含めて「会話」だと思ってください。本当に、新入社員に教えている感覚です。

AIを修正し育てる (2)

AI時代に求められる「5つの新しい能力」

このサイクルを回すために必要なのが、5つの新しい能力です。AIに的確に質問する力。文章で具体的に指示を出す力。返ってきた答えを見て修正する力。間違いを前提に試行錯誤する力。そして、日常業務の中でAIに頼む習慣。この5つを回し続けられるかどうかが、AIを使えるかどうか、経営者の力量に関わってきます。

少し補足すると、最初の「質問する力」から、すでに簡単ではありません。「効率を上げたいです」だけでは、的確な答えは返ってきません。どういう業務形態の、どういう会社で、何に困っているのか。データを渡したうえで質問する必要があります。指示も同じです。何をしてほしいのか、どういう出力がよいのか、文章で具体的に伝える。ここまでは、できる方がたくさんいます。

難しいのは、その次です。「修正する力」は面倒で、やらない方が本当に多い。ですが、出てきた答えがダメだったとき、そのままチャットを閉じてはいけません。ダメなところを「ここが違います」と伝えて、試行錯誤していく。そこが、本当に重要なところです。

AIを修正し育てる (3)

「AI導入」を、ゴールにしてはいけない

無理にITツールを入れることが、目的ではありません。経営者と社員が、少し不完全でも優秀なアシスタント(AIの脳)に対して、自然に「これ、どう思う?」「これをまとめておいて」と仕事を任せられる。その習慣と文化を育てることが、真のAI経営への第一歩です。

修正しなければ、AIは学びません。育てなければ、賢くなりません。新入社員に教えるように、根気よく。それが、AIを「道具」から「戦力」に変える、唯一の道だと私は考えています。

AIを修正し育てる (4)

中小企業AI経営協会
村越 慎司

AIに仕事を奪われる、と聞くと、多くの人は単純作業や低賃金の仕事を思い浮かべるかもしれません。ところがデータが示す現実は、その逆でした。いま最もAIの影響を受けているのは、むしろ高度な知的労働、つまり「頭脳労働」のほうなのです。

実際のデータが示す、最もAIの影響(実利用)を受けている上位職種を見てみます。1位はコンピューター・プログラマー。2位がカスタマーサービス担当者。3位がデータ入力者です。データ入力者とは、いわゆる事務作業をしている人たちのこと。事務作業は、中小企業にも数多くある仕事です。これらはいずれも、後で述べる「壁」がもともと低かった職種で、すでに大きく影響を受けています。

AIが次に侵食する「知的労働」の領域 (1)

いま「安全」な仕事と、その条件

では、いまのところAIから安全な領域とは、どこなのか。全労働者の30%は、現時点でAIの影響をまったく受けていないとされます。安全な仕事の特徴は、「身体的な存在」を必要とするタスク、あるいは「対人・制度的なタスク」と「文脈依存の判断・責任」を伴う仕事です。


仕事を、身体的か認知的か、そして高文脈か低文脈か、という2つの軸で整理すると分かりやすくなります。身体的な仕事はAIに代替されにくい。逆に、脳みそを使う事務的な作業は代替されやすい。請求書を送る、Excelに入力するといった低文脈の事務作業は、どんどん置き換わっていくでしょう。一方、経営幹部や社長のように、たくさんのことが頭の中に入っていて、すぐにはパッと置き換わらない仕事は、いまのところ残ります。

AIが次に侵食する「知的労働」の領域 (2)

 

弁護士も経営幹部も ― 結局は侵食されていく

ただし、私はこの「安全」が長くは続かないと見ています。AIは弁護士や経営幹部の仕事も、たぶん大半が可能になる。1、2年後、遅くとも5年後には確実でしょう。そうすると、いま安全とされている高文脈・対人の領域にも、AIは上がってきます。さらに人型ロボットが高度になってくれば、身体的な仕事の領域も、だんだんと侵食されていく。結局、どの領域もやがては侵食されていくのではないか、と私は考えています。

 

AIが次に侵食する「知的労働」の領域 (3)

 

データが暴く、AIに晒される労働者の意外なプロファイル

そして、ここからが意外なところです。データから見えてくる「AIに晒される労働者」の姿は、私たちのイメージとは違いました。AIの影響を受ける確率は、女性のほうが16%高い。高学歴、とくに大学院卒が17.4%を占め、これは影響を受けない層の約4倍。そして、平均して47%も高い収入を得ている人たちが影響を受けているのです。

なぜこうなるのか。私は、今回のAIは「脳みその革命」だからだと考えています。これまで学んできたこと、たとえば大学院で学んだような高度な知識ほど、実はAIが大体できてしまう領域だった。AIが最も影響を与えている上位層は、若年層の肉体労働者ではありません。AIはいま、低賃金労働ではなく「ホワイトカラーのプレミアム(高度な知的労働への対価)」を、直接ターゲットにしているのです。

 

AIが次に侵食する「知的労働」の領域 (4)

 

10年後の雇用予測に、すでにAIの影が差している

この変化は、未来の予測にもはっきり表れ始めています。米国労働省の10年予測を見ると、観測されたAIカバー率が高い職種ほど、今後10年間の雇用成長率が低く見積もられています。具体的には、AIカバー率が10%上昇するごとに、成長予測は0.6%低下する。つまり、AIの利用が進んでいる職種ほど、これから雇用が伸びにくいと、すでに織り込まれているのです。

AIに奪われるのは単純作業だ、という思い込みは、もう通用しません。狙われているのは、私たちが時間とお金をかけて身につけてきた知識そのものです。いま安全に見える領域も、その安全がいつまで続くのか。私は、その前提で動いておくべきだと見ています。

 

AIが次に侵食する「知的労働」の領域 (5)

 

中小企業のみなさんにAI導入を教えていく中で、私はあることに気づきました。社員の年齢によって、導入が早い会社と遅い会社に分かれる、ということです。年齢層が若い会社は、とにかく導入が早い。一方で年齢層が高いと、タイピングやチャットに慣れていないこともあり、AIを使うこと自体に大きな困難を抱えやすい。これが、現場で実際に起きていることです。

 

年齢・チャット慣れ・導入格差 (1)

数字で見える「世代間ギャップ」

この差は、データにもはっきり表れています。若年層(15〜18歳)の利用率は60.2%。そのうち週1回以上使う人は61.7%にのぼります(MMD研究所 2025年)。若い世代にとって、AIはもう日常の相談相手です。一方、日本全体での利用経験は約27%。20代の44.7%をピークに、60代では15.5%まで急減します(総務省 2024年度)。年齢によって、AIの利用経験にこれだけの差が出てしまっているのです。

 

年齢・チャット慣れ・導入格差 (2)

中小企業は、AIに無関心なわけではない

誤解してほしくないのは、中小企業がAIに無関心なわけではない、ということです。活用中(36.0%)と今後検討(32.4%)を合わせれば、約68%が前向きです(日本商工会議所 LOBO調査 2025年11月)。関心もあるし、必要性も感じている。それなのに、いざ「全社で活用する」という段階で、多くの会社が立ち止まってしまうのです。

 

年齢・チャット慣れ・導入格差 (3)

導入を阻む「5つの見えない壁」

立ち止まってしまう理由として、私は5つの壁があると考えています。
1つ目は時間・用途の不在。何に使えばよいか分からない。
2つ目は社内リソースの枯渇。教えられる人がいない。
3つ目は世代のねじれ。経営層との年齢差です。
4つ目はチャット慣れの錯覚。LINEが使えることと、AIに指示できることは別物です。
5つ目は完璧主義の罠。間違いが怖くて試せない、情報が漏れるのではと不安になる、というものです。


特に大きいのが、最初の2つ、時間と指導者の不足です。日々の業務に追われ、AIを勉強する時間が存在しない。ニュースは見ても、自社の業務に落とし込むには時間も労力もかかります。そして中小企業には、大企業のようなDX部門もIT部門もない。だから、社長自身が理解できなければ、導入はそこで完全に止まってしまうのです。

 

年齢・チャット慣れ・導入格差 (4)

意思決定者が、AIを体験していない

3つ目の「世代のねじれ」を、もう少し掘り下げます。若い社員はAIを日常的に使いこなしている。しかし、導入を決める社長の平均年齢は63.8歳です(東京商工リサーチ 2025年)。トップがAIを体験していなければ、現場が使っていても、全社的な投資やルール作りにはつながりません。だからこそ、まず経営者自身が理解することが重要だと、私は考えています。


ここで、私の意見もはっきり言っておきます。使うリスクよりも、使わないリスクの方が、はるかに大きい。これからの経営は、AIを使わなければ成り立たなくなっていきます。リスクやセキュリティのことも学びながら、怖くても使っていく。それが必須の時代だと思っています。

 

年齢・チャット慣れ・導入格差 (5)

ソフトバンクの孫正義社長が、「AIブームは、ドットコム時代の50倍の規模になる」と予測しました。かつてのドットコムブームをはるかに超える、もっと大きな技術革命が来る、という見立てです。実際、世の中の景気は停滞していても、AIや半導体といった一部のテクノロジー領域だけは、空前の「好景気」に湧いています。


AI好景気に乗る (1)

この好景気は、大企業だけのものではない

ここで考えたいのは、この限られた好景気は、一部の大企業だけのものなのか、ということです。私は、そうは思いません。むしろ、中小企業こそ、この波に乗る必要があります。一般の経済が停滞する一方で、AI市場だけが突出して伸びている。既存事業の延長線上には、限界が見え始めています。この巨大な波を「他人事」のままにするのか、それとも「自社の成長エンジン」に変えるのか。そこが分かれ目です。AI好景気に乗る (2)

波に乗るための、3つの実践ステップ

では、どうやって乗るのか。派手な裏技はありません。むしろ、とても地道な作業です。私が考える実践のステップは、3つです。

ステップ1:まず使う、そして学ぶ。システムを導入することではなく、経営者自身がAIに触れる「体験」から始めることです。経営者が自ら触れない限り、自社に最適なAIの使い道は、いつまでたっても判断できません。質問する、文章を作らせる、調べさせる、考えを整理させる、業務の改善案を出させる。まずは、その日常から始まります。

ステップ2:AIをベースに、ビジネスを考える。AIを「便利なツール」ではなく、「経営の土台」として捉え直すことです。AIは、オンラインに存在する労働力だと考えてください。その労働力に、どう業務を教え、どう手伝ってもらうのか。それを設計して、自社の業務に落とし込む。これは、どこかのベンダーがやってくれるものではありません。自社の業務フローを一番分かっている経営者が、「どこにAIを組み込むか」を考える必要があります。

ステップ3:時間とリソースを投資する。これは「コスト」ではなく、数年後の競争力を創るための「投資」です。正直に言えば、時間も労力もかかります。業務を把握し、AIを使う場所を決め、本当に回るかを確かめながら進める。それを1年、2年と繰り返していく作業です。AIは進化し続けるので、終わりはありません。AI好景気に乗る (3)

数年後に訪れる、2つの未来

この差は、数年後にはっきりと表れます。いまAIに投資しない会社は、人手不足に苦しみ、価格競争に巻き込まれ、業務の非効率が慢性化し、営業力も落ちていく。一方、早くにAIに投資した会社は、少人数でも強い会社になり、高い付加価値を提供でき、業務を圧倒的に高速化し、新しい経営モデルを確立できる。私は、こう分かれていくと考えています。

だからこそ、AIはコストではなく、これからの会社の競争力を創る唯一の切符だと、私は思っています。AI好景気に乗る (4)

待っていては、間に合わない

最後に、ひとつだけ。「どうすればいいのか」と考えて待っているうちに、たいてい遅れます。AIの進化が速すぎて、出来あがった「活用方法」が世に出る頃には、もう古くなっているからです。だから、待つのではなく、使い続け、学び続けることが重要になります。AI好景気は、いま動くすべての中小企業に開かれています。

ヘッジファンドが、コールセンター業務やビジネスプロセスアウトソーシング(業務の外部委託)を手がける企業の株を「空売り」する動きを強めている、というニュースが報じられました。空売りとは、株価が下がることを見込んで仕掛ける取引です。つまり投資のプロたちが「この業界の収益は、AIによって圧迫されていく」と見て、お金を賭け始めているということです。

報道によれば、欧州大手のテレパフォーマンス株は、空売りの対象とされた株式が利用可能な株式の4.6%に達し、1月下旬の1.8%から上昇。欧州のテクノロジーサービス企業の中で最も空売りされている銘柄の1つになっています。同社の株価は今年15%下落し、空売り比率は約11%に達しているとの調査もあります。

私は、コールセンターがAIに置き換わっていくことは、もう間違いないと見ています。だからこそ、コールセンターを運営する会社の株がここまで売られているのです


人間の顧客対応見限り (1)

800億ドルの「AI破壊的変革トレード」

この動きの背景には、大きな試算があります。会話型AIの導入により、世界全体でエージェント(顧客対応の担当者)の人件費が800億ドル削減される見込みだというのです(Gartner予測)。また、ソフトウェア、物流、保険など、ルーティン業務に依存するセクターでは、合計約3,000億ドルの時価総額がすでに失われているとされています。

過去の常識では、コールセンターは「人件費ビジネス」でした。人を雇えば雇うほど対応できる件数が増える、人が資本のビジネスです。それが今後は、顧客対応は「AI運用ビジネス」になっていく。AIを運用していれば、この人件費はもう必要ない、という話に変わりつつあるのです。

予測の数字も具体的です。2028年頃には顧客の70%以上が会話型AIからカスタマーサービスを開始するようになり、よくある顧客対応の80%をエージェントAIが人間なしで解決し、運用コストを30%削減する(Gartner予測)。McKinseyの試算では、生成AIの活用で、現在の機能コストに対して30〜45%相当の生産性向上が可能とされています。これは、コールセンターで対応していた人間の仕事がいらなくなっていく、という話です。


人間の顧客対応見限り (3)

最もAIの影響を受けている職種 ― カスタマーサービスとデータ入力

実際のデータが示す、最もAIの影響(実利用)を受けている職種を見ると、1位はコンピューター・プログラマー。2位がカスタマーサービス担当者、3位がデータ入力者です。データ入力者とは、いわゆる事務作業をしている人たちのこと。事務作業は、中小企業にも数多くある仕事です。

いまアメリカには、カスタマーサービスを担うAIサービスがたくさんあります。私は、これが日本にも入ってくる可能性は非常に高いと見ています。問い合わせ対応は、AIがやるようになっていくでしょう。


人間の顧客対応見限り (4)

中小企業の現実 ― 情報が分散した状態では、AIは機能しない

では、この流れに対して中小企業はどうなっていくのか。中小企業の現実は、こうです。電話、メール、LINE、Instagram DM、Webフォーム、FAX…。問い合わせの窓口がバラバラに存在し、情報が分散しています。

中小企業で最も遅れているのは、AIの導入ではなく「問い合わせの見える化」です。社長のLINEや担当者のメールボックスに情報が散在している状態に最新のAIを接続しても、機能不全を起こすだけ。情報が分散した状態では、AIは機能しないのです。


人間の顧客対応見限り (5)

AI導入の前提条件 ― 社内の「曖昧さ」を排除し、ルールを構造化する

AI導入の前提条件として非常に重要になるのが、社内の「曖昧さ」を排除し、ルールを構造化することです。担当者によって回答が違う。クレーム対応の基準がない。価格表が未整理。こうした曖昧な状態のままでは、AIは一般的な回答しかできず、自社の問い合わせ対応はできません。

逆に、文書化されたFAQ(よくある質問と答え)、統一された回答、AIから人間へ切り替える明確な基準
エスカレーション基準)。こうしたデータが整理された状態になって、はじめてAIは問い合わせに対応できるようになります。だからこそ私は、2026年から2028年にかけては「データ整理」がものすごく重要な時代になってくると考えています。


人間の顧客対応見限り (2)

 

AIはあなたの会社を置き換えるのではない

AIはあなたの会社を置き換えるのではない。AIを運用ルールとして組み込めた企業が、そうでない企業を置き換えるのである ― 私はそう考えています。

正直に言えば、AIで問い合わせ対応を行うための準備は、実は重い作業です。中小企業にとって、社内のデータを整理するのは決して軽い仕事ではありません。しかし、それをやり切った企業は、365日24時間、AIが問い合わせに対応してくれる状態を手に入れます。私は、その企業がおそらく勝つと見ています。逆に、いつまで経ってもそれができない会社は、将来負けることになる。問い合わせ対応は、自動化の最たる所なのです。

顧客対応をコストセンターから経営データへと変革する旅は、自社のルールを見直すことから始まります。

 

「中国系ハッカーが、東南アジアのルーターにカスタムのLinuxインプラントを展開した」。そんなニュースが出ました。私は以前から「ルーターは危ないですよ」とお伝えしてきましたが、それが本当に、攻撃の対象として大きな問題になりつつあります。少し前にもアメリカで、TP-Linkというメーカーのルーターが、脆弱性があまりにひどく、扱うのは危険すぎる、と報じられました。

ルーターが「開いたドア」になっている

ルーターは、インターネットにつなぐための機材です。問題なのは、そのルーターが、ハッカーが通れるように「ドアを開けたような状態」で設置されてしまっていることです。境界となるルーターは、いま国家を背景にしたステルス攻撃の標的になっています。見えないところでネットワークに侵入される、という事態が現実に進んでいます。


加速するサイバー脅威 (1)

攻撃する側のAIが、急速に強くなっている

もう一つ、見逃せないニュースがあります。アリババのAI「Qwen3.7-Max」が、コーディング(プログラミング)の世界ランキングで2位になりました。Code Arenaというテストでスコア1541を記録し、OpenAIやGoogleを抜いて、米国以外のモデルとして初の世界2位です。コーディングの能力は、ハッカーが悪いプログラムを作る力にもつながります。つまり、このAIを使えるハッカーは、これまでより強い攻撃ができるようになった、ということです。米国だけでなく、中国も猛烈な勢いでAIを開発している。その現実が、はっきり表れた出来事です。
加速するサイバー脅威 (2)

防御の猶予は「30分」になった

いちばん深刻なのは、対応のスピードです。これまでは、システムの穴(脆弱性)が見つかってから、実際に攻撃されるまで、数か月の猶予がありました。それが、いまや30分です。脆弱性が見つかったら、30分で攻撃される。これは、もう人間が対処できる速さではありません。

欧州中央銀行(ECB)の退任予定のルイス・デ・ギンドス副総裁も、ユーロ圏の銀行にサイバーセキュリティへの投資拡大を呼びかけ、こう警告しています。高度なAIモデルは、金融機関の防衛対応を上回る速さで、ソフトウェアの脆弱性を特定し、悪用できる、と。だからこそ、AIの攻撃にはAIでしか守れない。AIで脆弱性を見つけ、防御壁を作っていかなければ、もう太刀打ちできないのです。
加速するサイバー脅威 (3)

中小企業が、いまできること

「どうにかなるだろう」では、おそらく済みません。中小企業の方こそ、自分たちに何ができるかを考え、できるだけ早く手を打たないと危ない、と私は思っています。そのうえで、私が考えるすべきことを、お伝えします。

1つは、ルーターを替えること。いま使っているルーターを、日本のブランドか、米国のブランドに変えること。これは、今回のニュースを踏まえた、現実的な一歩です。

もう1つは、「突破される前提」で備えること。これからのAIの時代は、突破されることを前提にしておかなければなりません。たとえデータを人質に取られても大丈夫なように、バックアップを取っておく。そして、いつでもシステムを復旧できるよう、訓練しておく。これが重要だと考えています。
加速するサイバー脅威 (4)

 

「OpenAIが、日本のメガバンクにサイバー防衛向けのGPT-5.5を提供する」。そんなニュースが出ました。背景にあるのは、最先端のAIが、サイバー攻撃にも使えるようになってしまったことです。AnthropicのAI「Mythos(ミトス)」が、その一例です。最先端のAIが攻撃の道具になりうる以上、世界中の金融機関は、防衛を本気で考えざるを得なくなりました。


究極の盾としてのAI (1)

国が動いた ― 財務大臣の発表

片山さつき財務大臣は、OpenAIが日本の金融機関に対し、サイバー攻撃防衛を目的とした特別モデルへのアクセスを付与すると発表しました。モデルの名前は「GPT-5.5-Cyber」。金融システム上のリスクを精緻に分析し、情報セキュリティの脆弱性を見つけ、適切な防御策を組み立てる。そうした役割を担うAIです。

 

まず使えるのは、MUFG、三井住友、みずほ。いわゆる3大メガバンク(都銀)です。一国の金融の中枢を守るために、国家レベルで最先端AIが配置され始めた、ということです。


究極の盾としてのAI (2)

AIの攻撃は、AIでしか防げない

ここが、今回の核心です。AIによる攻撃は、もはや人の手では防ぎきれません。AIの攻撃には、AIでしか守れない。だからこそ、AIで防御壁を作っている銀行は安心できる。逆に、防御壁を作っていない銀行は、これから相当に危うくなる、と私は見ています。

 

そして、これは私が以前から中小企業の方たちにお伝えしてきたことでもあります。地方銀行や信用組合といったところは、トップの人たちがAIを理解しておらず、サイバーセキュリティが必要だということ自体、わかっていない状態かもしれません。だとすれば、かなり危ういのではないか。私はそう感じています。今回の発表でも、対象にゆうちょ銀行が含まれていないことに、私は気づきました。


究極の盾としてのAI (3)

これは、銀行だけの話ではありません

今回、攻撃に使えるほど高度なAIが現れたことで、規制当局の意識も変わりました。脅威となる最先端AIに対しては、同等以上のAIを「防衛の盾」として使うしかない、という考え方です。片山大臣も、この取り組みが日本の金融分野でサイバーセキュリティ強化の契機になることへの期待を述べています。

 

メガバンクが最先端AIで守りを固めるということは、いずれ日本全体の取引のセキュリティ基準が、大きく引き上げられていくということです。最先端のAIを、単なる「よくわからない危険なもの」として遠ざけるのか。それとも、自社と顧客を守るための欠かせない「インフラ」として向き合うのか。いま、すべての経営者に、その理解と決断が問われていると、私は考えています。

 

以前、「地方に住んでいて都銀と契約できない企業はどうすればいいのか」という質問をいただいたことがあります。今後は、インターネット銀行に資産を分散しておくことも、必要になってくるのではないか。私はそう思っています。


究極の盾としてのAI (4)

Googleが開いた発表会「Google I/O 2026」で、印象的な言葉がありました。Google DeepMindのCEO、デミス・ハサビス氏が、約2時間のキーノートの最後にこう締めくくったのです。「この時代を振り返ったとき、私たちはシンギュラリティの麓に立っていたのだと気づくでしょう」。

 

シンギュラリティとは、AIが人間の知能を超えていく転換点のことです。かつては「5年から10年先」と言われていました。それが、ほんの数年先の話として語られ始めています。私は、これが起きたとき、世界は本当に変わってしまうのではないか、と感じています。


シンギュラリティの麓1

発表されたのは「製品」ではなく、「頭脳の部品」だった

 

今回、Googleはいくつもの新しいAIを発表しました。私が見るに、これらは単なる製品ではなく、AGI(人間並みに考える汎用AI)という一つの頭脳を組み上げるための「部品」だと感じます。主なものを紹介します。

 

思考の速度 ― Gemini 3.5 Flash:非常に頭がよく、しかも速い。私が触った限り、2〜3秒で答えが返ってきます。賢さでは最新のChatGPT 5.5にやや及ばない印象もありますが、反応の速さは大きな魅力で、これでも十分だと感じました。

 

常時稼働のエージェント ― Gemini Spark:クラウド上で動く、個人向けのAIエージェントです。ユーザーのデバイスの電源が切れている間も含め、24時間体制で、ユーザーに代わって作業を行う設計になっています。Googleが、自律的で常時接続のAIアシスタントへ、これまで以上に踏み込んだことを示す発表でした。

 

物理世界との接続 ― Gemini Omni と Android XR:現実世界の映像など、あらゆる入力を理解してデータにします。動画の生成や編集を、Androidを搭載したメガネ越しに行う、という発表もありました。


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「AI」は、もうスマホの中の話ではない

 

こうして見ると、AIはいろいろな場所に組み込まれ始めています。先日お伝えしたロボットもそうです。チャットで話して、文字で答えを受け取る。AIはもう、それだけのものではありません。スマホの中で会話するだけのAIではない。ここを理解しておく必要があると、私は考えています。

 

一方で、ハサビス氏は、現在のAIをまだ「完全なAGI」とは認めていません。言葉の流暢さやパターン認識は達成済み。しかし、自分で発明したり計画を立てたりする力で人間を超えることは、まだ挑戦の途中だと言います。その最後の壁も、あと数年で越えられるだろう ― 彼はそう見ています。

 

ピチャイCEOにいたっては、いまのAIは3年後には「かなり原始的」に見えるようになる、とまで語っています。


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中小企業の経営者の方も、ロボティクスを含めて、どこで、どうAIを使っていくのか。それを学び、考えていかなければならない時代になってきた ― 私はそう感じています。